ご案内
C02排出量の抑制というさらに厳しい問題が世界の自動車産業に襲いかかってきた。
化石燃料をエネルギ−源にした場合、いかに良好な燃焼を実現しても、最終的にC02とH20を出さないわけにはいかない。
H20は無害だが、C02が成層圏に到達して地球全体をすっぽりと覆うことで、地球全体から発生する熱の放散を妨げる『温室効果』をもたらすとされている。
産業支叩以後、地球の温度の上昇のカ−ブは、それまでの時代とは明らかに違ってきている、と地球物理Aはいう。
それも二O世紀に入って、人間が工ネルギ−源を化石燃料からふんだんに利用するようになってから、急激になっていることは事実のようだ。
こうしたなかで、運輸によるものは全C02排出量の一九・二%占めている(『環境白書』一九九七年)実態のなかで、日本の自動車産業がC02の排出量の低減という課題を世界に先駆けて克服するとなれば、かつての排気対策成功以上の経済的・心理的な効果が期待できるのではなかろうか。
ユーザーに主体性をおいたクルマづくりヘT・エコプロジェクトが、長期的な視点から自動車全体の命運を賭けた技術面での挑戦であるとすれば、より短期的な視点から、Tという企業について、その存続・発展を追求するために設けられたのが、VVC(ヴァ−チヤル・ベンチャー・カンパニー)という新しい組織である。
Tの商品が、最近とみに若者から離れている現状に危倶を感じた奥田社長の発案で一九九七年八月にスタート。
その狙いはざっとつぎのようなものだ。
Tが掲げるコ二世紀における調和ある成長』を実現するには、まずもって二一世紀を担う世代の支持が不可欠だ。
現在の圏内市場における三O歳代以下を中心とした若年層(ニュ−ジエネレ−ション)から、好意をもって受け入れられるための種々の施策を、同年代の若手社員みずからが、中心となって企画・実行させる。
そのためには、既存の組織の枠を越えたヴァーチヤル・カンパニー(仮想会社)として組織運営を行う。
スタッフは社内だけでなく、社外のデザイナー、コンセプタ!など、アイディアと情熱をもった人材の幅広い、ネットワ−クによって構成させる。
VVCは、市場の情況やターゲット・ニ−ズの変化を俊敏仁捉えて、その活動に反映させて行くために、既存の仕組みにはとらわれないスピーディな意志決定の方法を検討していく。
ニュージェネレーション向けの新しい商品やサービスを展開するために、種々の企画を立て、その事業化に取り組んで行くことを主な活動内容とする。
さらに、VVCの設立に合わせて、その活動内容に関するいろいろな情報発信を行うと同時に、商品企画を含めて幅広く社外の人びとの意見を取り入れる交信の場を設ける。
そこでは圏内・海外を問わず世の中の声を取り上げていきたい。
一九九七(平成九)年に、創立六O周年を迎えたT自動車だが、最近とみにその購買層の高年齢化が際立っている。
たとえば、乗用車の中核的な存在であるコロナを例にとっても、その購入層の平均年齢はゆうに五O歳を超えているのだ。
かつて、一O数年にわたってコロナの開発に携わり、一昨年、現行モデル『コロナ・プレミオ』のリリースを最後にT自動織機鮒に転出したKは、プレミオの開発作業のころ、筆者にこう語つたこと、がある。
「コロナの市場を調べて見ると、非常に再購入が多いのです。
他のクルマのことは考えに入れずコロナからコロナへと買い換えをされる。
これは、商品を信頼して下さっているという意味、ではありがたいことですし、ディーラーのアフターケアが非常にょいという証明でもあるわけですが、当然のこととしてユーザーの年齢を押し上げていることになります。
もっと若い人たちに乗って欲しい、そのためにも私はコロナという名称にこだわることはない、と主張したんです。
コロナを冠せず、プレミオだけにして、すこしでも新鮮な感じを強調したかったのですが、販売サイドから強い反対があって実現しませんでした。
サブネ−ムならいいだろうということになったのですが」これはコロナに限らず、T車全体に共通する悩みでもある。
ユーザーの固定化とともに、いわゆる上級指向というものも、そのスタイルを変えつつある。
かつて、T自動車のトップブランド、クラウンのためにつくられた『いつかはクラウン』という伝説的なコピーは、自動車という商品は買い手の年齢や地位やそれに対応した可処分所得によって、ピラミッド状に構成されることを前提としたものだった。
それは、メーカーが意図的につくったものとは言い切れない。
自動車という商品に対する脊誠もそれを望んでいた。
だが、現代ではそうしたヒエラルキー自体が否定されつつある。
Tが構築したヒエラルキーの枠に束縛されたくない、という意識が強まったともいえるし、自動車の普及が進み、国産車だけでなく外国車もどんどん市場に入ってきたことから、ユーザーの意識や価値観の多様化によって、個人ごとに異なるヒエラルキーが生まれているのかも知れない。
そうしたなかで、若者たちがT車から離れて行くという現象が明らかになったことに、社長の奥田は危慎一を感じた。
この世代は、生まれたときから家には自動車が存在していた。
両親たちは、自動車を初めて購入できた世岱−あり、自動車を持つことだけで成載があった。
しかし、この世代では自動車を生活の一部として捉えている。
商品にたいする目は厳しく、通り二遍のデザインや性能のクルマでは、強い興味をもつはずがない。
若く活動的で流行に対しては非常に敏感であり、生活のなかで自分だけの個性を主張する。
そして重要なことは、家族や友人たちのなかで自動車の選択に関する影響力が大きいことだ。
ただ自分たちだけの世代に対してだけではなく、三O歳代や四O歳代の人間に対して大きな影響を与えるということだ。
先にも述べたように、これまでT自動車が構築してきた、年齢や所得水準、家族構成などによるヒエラルキーのピラミッドは、彼らには通用しない。
それがVVCの大きな役目であり、ひいては新しいTへと脱皮するひとつのきっかけになることが期待されている。
VVCのスタッフは、Tの社内から選抜された。
一九九七年春に説明会が聞かれ、集まった七OO人ほかの社員のなかから三七人が新しい組織に移って行った。
一九九八年春の段階では、まだ具体的な活動による成果は表面化していないが、ひとつの手法として『外からTを見る』という発想を明らかにしている。
T自動車に限ったことではないが、これまでの開発作業は市場調査で需要を守り、コンセプトを社内で練り上げて議論の末にひとつの結論を導きだす。
デザインはコンセプトにもとづいていくつかの案を描き、それをしぼっていってモデルをつくり、役員が一堂に会してのプレゼンテーションにかけて決定するというプロセスをたどってきた。
この方式では顧客が意見を述べる機会はほとんどなく、あくまでメーカー本位の開発ということになる。
しかし、VVCでは逆の方法を提案しようとしている。
それは、デザイナーたちが自由にモデルをつくり、それをユーザーに見せて反応を確認して、よしと決まったものを開発のル−卜に乗せるというものだ。
どこまでユーザーの声が盛り込まれるかはまったく未知数である。
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